歴史と時間の重み

携えて私たちが生み継承する

人間としての証

家系

親から子へ子から孫へ

連綿と絶えることなく織り成される

親と子の絆

清らかなる時の流れに

たゆたう慎み深き愛のぬくもり

永遠に繰り返される愛の絆を形にかえて

そして

はじまる新しき伝統

この慶をすべての人の心に

伝統工芸品

日本の風土と歴史の中で織り成されていた手づくり産業の振興の目的で伝統工芸品は、昭和49年4月に制定された「伝統工芸品産業の振興に関する法律」にもとづき通商産業大臣が指定するものです。

その要件としては、産地の歴史的な伝統、製品の創り方や材料も伝統的であること、主な工程が手づくりである事、などの要件が必要です。

しかし、単に昔のものを引き継ぐのではなく、今日の生活環境にあった改良がされ、生活用品の産業として成り立つことも必要とされます。

西陣織では昭和51年2月26日に以下の12品種が伝統工芸品に指定されました。

・つづれ織・錦(経錦)・錦(緯錦)・緞子・朱珍・紹巴・風通・綟り織・本しぼ織・ビロード・絣織・紬

つづれ織

つづれ織とは京都で生まれた織物の技法。

風景や模様を織り込むために、織り出す必要部分だけに、平織りでよこの色糸を往復させて組み織りします。祇園祭の鉾の前掛けで代表されるように300年の実績がある大変丈夫な織物です。表面にはよこ糸だけ出ている為、たて糸との表面摩擦がなく、他の織物より丈夫です。帯地をはじめ、ふくさなどに多く用いられます。

たて糸より3倍から5倍も密度の大きいよこ糸で、たて糸を包み込むように織る。したがって、織り上がった織物の表面には、たて糸は見えません。

文様の部分ごとに織り上げていくため無地の部分をのぞいて織幅全体によこ糸が通らず、文様の色糸と色糸の境目に「羽釣孔(はつりめ)」というすき間ができているのが特徴です。

このつづれ織りを織る方法は爪をノコギリの歯のようにギザギザにきざんで、文様の部分部分に織り込んでゆくといった細かい織り方なので、複雑な文様になると1日かかって3センチ四方しか織れないものもあります。

つづれ織りはつづれ錦ともいい、織物の中では最高級品です。

織物一般のイメージとは程遠い美術工芸品の域にあります。故に戦時中は贅沢品とみられ金・銀・生糸の使用が禁止され、業者は廃業寸前に追い詰められ、伝統技術の保持、保存に苦慮されました。

戦後、世の中に平和が訪れ、手織りつづれに対する認識が高まり、一般に普及されるようになりました。

つづれ織りの歴史

2000年以上の歴史を持つ

世界で最も古いつづれ織りは紀元前1,580年頃エジプト第17王朝期のもの。西陣では、江戸時代の中期に井筒屋瀬平という人がつづれ織を織った記録があります。

歴史的にみて、どのようにして西欧から日本に伝わったかはあきらかではないですが、ペルシャのギリム、フランスのゴブラン等に根源があり、そこから中国をへて七世紀ごろ海をわたったのではないかと考えられています。

有名な奈良の当麻寺の中将姫が蓮糸使って一夜にして織り上げたと言われる観経曼茶羅(唐製)、祇園祭りの山鉾(西欧)の作品とされています。

日本においては、気候・風土・建築等の環境が西欧諸国と異なる為、養蚕から始まる絹糸の精製、織場の関係から木製水平織機の使用により、西欧のつづれとは別で、繊細で精巧な美術織物として完成され、日本人の暮らしにとり入れられているのです。


つづれ織ができるまで

•図案の考案

良い製品を織るためには、図案が決め手となります。用途に合った柄、見せ方などがの下絵をする工程です。

•精練

糸染めの前に約98℃の石鹸液で練り、生糸の表面にある不純物をとり除きます。精練された糸は生糸の約70%の重さになるが、絹独特の光沢としなやかさが出て染色しやすくなります。

•染色

「つづれ織り」の大きな特徴として色数が何百色になっても、色の使い分けが出来、全部の色が織りこめます。したがって、染色についても図案の彩色通りに織り上げるためには、染にも織りと同じく永年の経験と高度な技術が要求されます。また染色の堅牢も要求されますので、染料の吟味も慎重に行われます。少量多色のものは染竹や手カギを使って手染めにします。

•配色

「つづれ織」の基本になる図案に対し、その用途に応じた配色が行われます。色彩だけでなく、色に深みを持たせたり、侘び寂びを表現するため、数色の色糸の組み合わせも行われます。

•糸巻き

織る前の準備として、よこ糸を管に捲く作業を行います。このよこ糸は色別に綛にされたものを「五光」という道具にかけ「早車」と呼ばれる昔その尽の糸車を回して小さな管に捲きとります。

•織り

「つづれ織」の名称で親しまれている織物は、「綴錦」という全工程を手織りで織られるものです。


本つづれ(つめ織)

ひと糸ひと糸、手の爪を使って織りあげるつづれ織の技法です。

本つづれ織りは模様を織るのに一般の織物と異なり、たて糸の下に原図をおき、よこ糸を織巾一杯ぱいにとおさず、模様や色彩の異なるごとに織り返して、「やすり」で研いだ爪先で、かき寄せ、木ぐし形の道具でつめて、生地と模様を織り上げていく全くの手仕事です。

よこ糸を模様や色によって織り返す技法の為、当然糸の織り返す部分に小さな空間ができます。

つづれ織では、この空間を「羽釣孔(はつりめ)」と呼んでいます。この「羽釣孔(はつりめ)」がつづれ織の特徴ともいえます。

手間はかかりますが、模様図案一点一点の細かな要望にも対応できます。つづれの最高級品です。

本つづれ式・新つづれ

他にも織り方に本つづれ式と新つづれという二種類の織り方があります。

本つづれ式はジャガー機を使って手で織りあげるつづれ織の技法で表面は本つづれと同じ風合いですが、裏面にはよこ糸がわたっています。

新つづれの技法は本つづれ式と同じで、本つづれ式が生地も模様もつづれ組織で仕上げるのに対して、生地はつづれ組織、模様は縫い取り(生地の上にたて糸をわたらせて模様描く)で仕上げています。